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天使の寝顔


「ハァ…んっ、ハァ…」

「スー…」

 私の乱れた吐息と彼の寝息が交差する。

 二つは全く別の種類の音だったが、私はそのハーモニーを聞いて興奮していた。

 彼の寝息を消さないように喘ぎ声を押し殺す。

 しかし私は天使の寝顔を前にして、大きな快楽の渦に飲み込まれていた。

 私の隣の席の彼はいつも寝ている。

 まぁ、授業中に生徒が寝るなんて光景はめずらしくもない。

 それにしても、彼は寝に来ているとしか思えないほど良く寝ている。

 そして私は、そんな彼を見る為に学校に来ているとしか思えない。

 「皆月貴時」

 それが彼の名前。

 それ以外の確かな情報は、クラス名簿に載っている住所と電話番号ぐらいだ。

 年齢にそぐわないサングラス姿、時々目撃される喫煙。

 「優等生」ではないらしいが、学校での彼はほとんど寝ていて大人しい。

 起きている時の目つきの鋭さが「危険人物」を現してはいるが…。

 「暴走族の頭」「テロ組織の一員」「マフィアがバックについている」e.t.c…。

 悪い噂はたくさんあるけど本当のところは解らない。

 そして興味はない。

 私は横で眠る彼にだけ夢中なのだ。

 その彼が今私の横で寝ている。

 いや、いつも横で寝てるんだけど…。

 教室に二人っきり。

 次は教室移動があるが、きっと次の授業はサボるつもりなのだろう。忘れ物を取りに来ると彼が寝ていた。

 ドクンッ…。

 サングラスで寝顔が隠れているのが惜しいが、私の大好きな彼が寝ている。

 いや、違う。

 私の大好きな「寝ている彼」がいる。

 サングラスの奥に見える軽く閉じられた切れ長の目。

 額にかかるサラサラの前髪。

 小さく聞こえる静かな寝息。

 やすらかな寝顔。

 そのくせ隙はない。

 怖いほど綺麗な天使の寝顔。

 それを見てるだけで身体が熱くなる。

「ハァ…。」

 私はうっとりとため息をつく。

 密室で二人っきり。

 私のための寝顔だと錯覚が起こる。

 ジンッ…と自分の下半身がうずくのが解った。

「ふうぅぅ…」

 彼の寝顔を見ながら熱い吐息を漏らす。

 自分の傍でやすらかに眠る彼を想像し、何度も下着を濡らした。

 寝ている彼を思い出し、何度も何度も上り詰めた。

 夢にまで見た彼の寝顔。

 それが今目の前にある。

 …条件反射のように身体がうずく。

 条件反射のように下半身に手がのびる。

 スカートの上からアソコを押さえつけると身体中に電流が走った。

「…やだ…」

 私は自分の行動に震えた。

 ここは学校、誰が来るか解らない。目の前の彼がいつ起きるかも解らないのだ。

「ダメ…そんなの…」

 しかし自分の意識とは反対に、私の指は自然と下に降りていく。

 震える指先をスカートの中に潜り込ませ下着をなぞる。

 割れ目にそってゆっくりゆっくり…。

 下着はすでにビショビショで、見えないけれど私のアソコの形はくっきりと浮かびあがっているだろう。

 その想像は私をさらに興奮させ、私の指は大胆に動き出す。

 下着をずらして秘部に触れるとそこはもうビショ濡れだった。

 ろくに触りもしないのにアソコからは蜜が溢れ出し、私の足を滑り落ちていく。

 私はためらうことなく、その蜜つぼの中に指を入れた。

「っっん…はぁ…」

 ゆっくりと指を出し入れする。愛液がたっぷりと自分の指に絡みつく。

 クチュクチュ…。

 厭らしい音にさらに興奮する私。

 最初は人差し指を1本だけ入れていたが、すぐに物足りなくなって中指も差し込む。

 グチュ、チュ…グチュグチュ…

 二本の指で熱くなったその中をかき回し、私は身体をのけぞらせる。

「ハァ…んっ、ハァ…」

「スー…」

 私の荒い息とは反対に、彼の静かな寝息が聞こえてくる。

 彼の寝息を聞き逃さないよう、私は自分の声を押し殺す。

 気持良さで閉じていた目をゆっくり開けると、薄く目を開けたその向こうに気持良さそうに眠る彼の姿があった。

 天使のような寝顔を前に、淫らな姿をさらす自分。

 羞恥で身体は熱く火照り、快楽で指の動きはより激しくしくなっていく。

「フゥ…ハァ、ハァ…んっ…あぁ…」

 …もう止まらなかった。

 私は快感に意識を占領され、一刻も早く解放されたかった。

 手持ちぶさだったもう片方の手も秘所へと降ろされていく。

 一方の手で熱くトロトロになった中を掻き混ぜながら、もう一方の手で肉芽に触れる。

「ハァ、ハッ・・・フゥ、あっ…ハァ…」

 普段はひっそりとその存在を隠しているそれだが、包皮はすっかり剥かれ、露わにになった肉の芽がその存在をアピールしていた。

 尖り切ったそこを愛液にまみれた指で擦りつける。

「ハァハァ…ハッ、ハッ…んっ…」

「スー…」

 グチュ…チュクチュク、チュ…グチュグチュ…

 粘膜の擦れる音、荒い吐息に押し殺した喘ぎ声、そして彼の寝息…。

「ハァ、ハッハッ…んくぅっっっ…」

 教室に響く厭らしい音が私を絶頂に導いた…。

「皆月君。いつから起きてたの?」

 しっかり身支度を整えてから寝たフリをしている彼に話かける。

「今さっき。声を荒げてから」

 閉じていた目をめんどくさそうに開けながら、彼は一応返事をしてくれた。

 こんな状況で、それも急に話かけられても慌てる様子はない。

「それまで全然起きなかったの?」

「気配で起きたけど害はなさそうだからもう一回寝た。起こさなければお前が何してよーと自由だし。」

 …ドクンッ。

 もう確実に上り詰めたはずなのに、下半身が熱くうずき心が波打つのが解った。

 私がいるのを知っていて、私が何をしているのかも知っていて…それでも彼は眠っていたというのだ。

 あの時間あの寝顔は私のものだったのだ。

 嬉しさで身体が熱くなる。

「…勝手な女」

 何かを感じたらしく冷たい視線を向けボソッとつぶやく。

 その目つきは鋭かったが、天使の寝顔を一時でも手に入れた私は怖いもんなしだ。

「ハァ…寝てもいい?」

 彼が呆れたように言う。

「どーぞ、どーぞ」

 私が断るわけはない。

「…勝手な女」

 …今度は少し、彼の目は笑っていたような気がする。

 …。

 スー…

 すぐに彼の寝息が聞こえてきた。

 今度はやすらかな気持で寝ている彼を見つめる。

 この寝顔が私のものになったら幸せなのにな…。

 でも、まぁ…ひとまず。

 今だけは私のものなんだしね。

 私はニッコリ微笑んで、天使の寝顔を見つめ続けるのだった 。


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