「ママ!!」
雪之絵命が床に開いた穴に自ら飛び込もうとした時、誰かが後ろから命の首根っこを捕まえて引き止めた。
「馬鹿か。姉さんが行って何をする気だ?」
その口調で解る、止めたのは貴時だ。
「は、はなせ...!」
振り払うつもりの命だったが、それより先に貴時に引っ張られてバランスを崩し、そのまま引き摺られるように下がらされた。
床の穴は奈落の底のように見えるが、実際は一階に通じているだけだ。 白い死神の長身なら手を伸ばすだけで届く程度の高さである。 何時までも穴の側に居るのは危ない。
「雪之絵真紀に親父の側に居ろと言われたんだろうが!良いからこっち来い!!」
「でも!」
「いくらママでも一人じゃ絶対に勝てない!!」
「まさか、」
「皆月京次さんを蘇生させて、白い死神と戦わせる気ですの ?」
「そうだ。雪之絵真紀が食い止めている間にな。」
「ムチャクチャですわ。無傷でも白い死神に勝てるとは思えませんのに。まして...」
「解ってる。しかし、たとえ瀕死でもこの中で一番強いのは親父だ。それに賭けるしかない。」
「リスク高すぎですわ。 そもそも、蘇生させる手駒も沢山欠けてしまいましたし...」
「......」
傷を塞ぐ力を持つ鳳仙圭は生死不明。
輸血に使える人材も、貴時は大怪我。
「陸刀アケミは?」
「ごめんなさい、私のミスです。人間強化剤の混じった血液は使えませんわ。」
申し訳なさそうに答えたエデン母。 正直、白い死神の登場に気を取られ、京次の輸血にアケミが必要であることを失念していた。
「桐子と加渓の血液型は?」
「ダメです。私はAB型だし、加渓はОですけど...あれでは。」
桐子の視線には、白目を向いて倒れている加渓がいた。 死んではいないが、どこからか出血しているらしく、こげ茶色の廊下の床を黒く染めていた。
時貴も加渓も、輸血に使えるような血は微々たるものだろう。
「...ち、本当に命姉さん一人に頼らなければならなくなったぜ。」
それでも、やるしかない。
「...本当に本気なんです?白い死神に勝てる可能性はゼロですわよ?」
「解っているさ。蘇生にしても可能性は相当低いことはな。でもな、あいつ、神の意思だの言ってはいるが、結局、俺達をあざ笑って遊んでいるだけだろう?」
「......」
それは、エデン母もそうだろうと思った。
自分の強さを知らしめるには、生存者が必要なのだ。 あれ程の戦闘能力を持ちながら、攻撃を受けた貴時と加渓が生きているのが何よりの証拠である。
以前、白い死神とエデン父率いるSPチームが戦った時、エデン父とエデン母が一命を取り止めたのも同じ理由なのだから。
「親父や雪之絵真紀をナメて遊んでいるのなら、親父が勝てる可能性は決してゼロじゃない!」
「......」
「......」
「それでも、皆月京次さんお一人ではどうしようもないと思いますが...」
冷静に考えて、エデン母がそう答えると、貴時は苦しげな表情に変わるとともに、その本音を呟いた。
「できれば、蘇生が早く適って、親父と雪之絵真紀の二人掛りで戦えれば理想的なんだが...」
つ
クレイモア 屑男 撲滅抹殺委員会!
−前へ歩く−最終話(その二十四)
終