「!」
タッツ
「流石は雪之絵の血だな、アクロバットな戦い方しやがる。俺には無理だぜ。」
京次は、そう言いながらのそりと立ち上がった。 無論、視線で『黒い瞳』を牽制しながらだ。
「ダメージ無いのか?」
「ああ、こうやって、自分で床をぶち抜いたからな。 だから、蹴りの威力は届かなかった感じだ。」
後ろからの貴時の問い掛けに、そう答えながら右拳でアッパーをして見せる。 そのアッパーの軌道は、上では無く、自分の後ろに向けられていた。
「......」
不安にさせまいとこれは言葉にしなかったが、貴時も楽観はしていない。
結果こそ互角の攻防だったが、内容は『黒い瞳』が京次を圧倒しているように見えた。
更に、相手が雪之絵命である以上、京次は攻撃を当てられる個所が限られ、力もセーブしなければならないハンデがある。
どう考えても、有利な状況が思い当たらない。
苦渋の表情の貴時がそう結論を出した時、当の京次からは、思いがけない言葉が発せられた。
「だが、これは何とかなるかも知れねーな。」
「!?本当か!?」
「ああ、今ので解った。」
0
「そうなのか!?」
「ああ、悪霊が命の体をラジコンみたく動かした所で、あんな動きはさせられねーよ。 つまり、あの動きは命が自分の意志で行ったのさ。」
先ほどの攻防で体感した、『黒い瞳』の力と速度と体術。
人間離れした力と速度は悪霊が作用しているのであろうが、体術は『雪之絵真紀』と同じものであると、京次は誓って言えた。
「...命姉さんが自分の意志で悪霊に荷担しているって言うのか?」
「いや違う。 幻覚を見せられているのか、幻聴を聴かされているのか、...兎に角、悪霊に騙されてる感じだな。」
「...気絶させられるか?」
貴時の、この危惧も当然。
光明が見えたとは言っても、相手は『黒い瞳』である。