クレイモア

屑男 撲滅抹殺委員会!

−前へ歩く−

ドン

 京次は空手家なのだが、師匠はおらず、誰かに教えを乞うた経験も無い。 町の空手道場で見様見真似で型や技を覚え、使い易い形に自分で作り変えていった。

 利き手の右拳を、少し前の位置でヘソまで下ろす。

 左手は握らない状態で胸の近くに置く。

 利き足である右足も、右手同様に少し前に出す。

 右腕を前に出すのは、ボクシングでいう所のサウスポースタイル。 

 構えで、利き腕を前に出すのは珍しく、拳を握らないのも、空手家としては珍しかった。

「大丈夫なのか? そんな構えで。」 京次の姿を見ながら、貴時が思わず呟く。

「あ? まあな。利き腕利き足は強いだろ? 短い距離で致命傷を与えられるからな。 逆に左は、拳も足もそれなりの距離が必要なんだよ。」

 それを聞いて、貴時は『親父らしい。』と思った。

 左右の両手両足、どちらも相手に一撃で致命傷を与えられる距離に置いてあるのだ。

 もう一つ付け加えておくと、ガードを下ろしているのは、相手の攻撃を顔面に誘う為だ。

 自分の動体視力ならカウンターに取れるという自信の現れであった。

 攻撃の為の防御。

 本物の空手は、一撃で人を殺せる。 だから、空手の試合は『一本』で終わり。

 一撃必殺。 その精神だけは確かに『空手家』であった。

「ま、今回は殺す訳には行かないが...」

 そう呟いた京次の左手の向こうに見える『黒い瞳』は、少し大きくなっていた。

 上下に揺れない歩行なので気がつきにくいが、『黒い瞳』は、京次に向かって歩いているのである。

「顎に軽いのを当てて、脳震盪を起させるのが一般的だろうな。」

 京次は、構えたまま『黒い瞳』が近づくのを待つ。

3 元々皆月京次は、雪之絵、鳳仙、陸刀の三家にまったく関係の無い血筋なので、道を開けて通してやれば、『黒い瞳』は危害を加えないかも知れない。

しかし、当然ながら、京次にそんなつもりは、まったく無い。


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