「義手を外してくれて、アリガト。」
光沢のある粒子が、外れた義手の中から吹き出し、闇夜を白く染め上げて行く。
一瞬、毒ガスかと恐れをなした加渓が飛び退いたが、フラリと立ち上がったサラの様子を見るに、そんな危険なものでは無いと解った。
鳳仙圭が、歯ぎしりしながらうめいた。 お世辞にも視界良好とは言えない水晶は、既にサラの姿を捕らえてはいなかった。
サラは鳳仙圭の存在など知る由も無いのだが、幾つかある遠隔操作の弱点の一つが、ここで明るみに出たのである。
「一発の破壊力は、誰にも負けない自信があったんだけど...恐れ入ったわ。 でも、お頭は、私の方がお利口さんだったみたいね?」
元々、気配を読むなどという高等技術が出来るはずもない鳳仙圭だが、今、まったく別の場所にいるのだから尚更である。 また、操られているだけの桐子や加渓は論外だ。
水晶の向こうにいる鳳仙圭は、何時もの余裕を無くし、悔しさに体を震わせた。
思考は認めていないが、気持ちは認めている。 鳳仙圭は、欠陥品と馬鹿にしたサラメロウに、得意の頭脳戦で完全に上を行かれたのだ。
『桐子!音を探れ!!金属製の義足なら、アスファルトを歩く時、必ず金属音が聞こえるはずだ!!』
この状況では、もはやそれ一つしかない命令を下す。
桐子はヘタに動かず、その場で身の回りを警戒しながら、加渓とともに耳を澄ませた。
白い煙幕の噴出は、もう止まっている。 時間と共に、煙幕も風に流され視界も戻って行くはずだ。