覚悟を決めて本来の自分、すなわちヒットマンに戻ったサラであったが、それでも加渓の戦闘能力は遥か上を行っていた。
だが、何よりサラを困らせたのは、今までと違う加渓の動きだ。
雪之絵と戦った時の加渓は、自分を支点に巨大な斬馬刀を振り回していたが、 それがために、遠心力に縛られる結果となり、一定の場所から素早く動けず、雪之絵の攻撃を易々受けてしまっていた。
しかし今の加渓は、むしろ斬馬刀よりも加渓本体の方が動きが大きい。
雪之絵真紀に合格範囲と表された加渓のスピードではあるが、それはあくまで雪之絵と比べたらの話だ。 サラにしてみれば、加渓のスピードは充分に脅威である。
「くっ...」
振り下ろした斬馬刀が、アスファルトにめり込む。 おかげで加渓は次の攻撃に移れない。
サラは、これ幸いと、その場から離れる。 二人の間に 一息つける程度の距離が空いた。
「......」
「ふぅ...」
サラは、チラリと自分の左義手に視線を走らせる。 この左腕の中には切り札として、強力な爆弾が仕込まれていた。
タンガタングステン製の義手ごとふっ飛ばす威力を持つ、この爆発に巻き込まれれば、生身の加渓など瞬時にミンチである。
使い方は簡単、左義手を外し、黄色い部分を捻って加渓に投げつけるだけでよいのだ。 右の義手にも、一応別の切り札は用意されているが、この状況を打開するには、左の爆弾の方が手っ取り早い。
「左の義手か...」
サラは苦笑いの後、右側の義手に手を伸ばした。
こちらにも、一応使える物が仕込んである。