裸足のまま道路を走り続け、タケ子の住む女子寮までやって来た命は、随分前にタケ子から貰った合鍵を初めて使い、観音開きのカラス戸を開ける。
深夜をとっくに過ぎている今の時間、各部屋は勿論廊下も真っ暗だったが、夜目の効く命は、そのままタケ子の部屋へと迷う事なく直行した。
ペタペタと裸足の足音を鳴らしながら、コンクリートの廊下を進み、「陸刀加渓」のネームプレートを確認した命は、ノックも無しにドアを開けた。
「タケ子!!」
命は、闇の中の女性に、飛び込むように抱き付いた。
「わ、わた....」
何かを叫ぼうとした命だったが、抱き付いた相手が微妙にタケ子と違う事に気が付いて顔を上げる。
雰囲気も匂いも姿形も、タケ子にとても似た相手。 もし、タケ子を抱いた経験が無ければ、命はその違いに気が付かなかっただろう。
しかし、今更それに気が付いても遅すぎる。無防備で抱き付いてきた相手を捕らえるなど、陸刀アケミからすればあまりに簡単だった。
薬を含んだ布が、命の口と鼻を塞ぐ。
「!!」
布を持つ手は下から伸びてきた為に、視線を上げていた命は死角をつかれ、避けられなかったのだ。
「んんっ......」
暴れようとする気配だけは見せた命だったが、あっさりとアケミの腕の中で力が抜けた。
「ふーん...」
「京ちゃんが宝物として大切にするのも、加渓が本気で好きになるのも、解る気がするわ。」
最終話 前へ歩く(その四) 終