,り

クレイモア

屑男 撲滅抹殺委員会!

−前へ歩く−

 兎に角、皆月京次の側から離れなければならない。

 エデン母は背中を叩き付けられた瞬間、その壁に爪を引っ掻けて滑るように横に逃れた。 

 しかし、皆月京次は十メートルそこらの距離なら一瞬で詰められると竜王戦で実証されている。 壁に、二度三度と爪を掻けて移動した。

 その距離二十メートル以上、間違いなく安全と思える場所まで来て、床へと降りた。

 エデン母は腹を押さえて顔を歪める。

 体の回転と、若干の踏み込みだけで威力を稼いだ掌打。 通背拳のような洒落た技ではない。

 ただ押しただけと言って良いその攻撃。 それでありながら、エデン母の体は実際に壁まで飛ばされた。

 予測通りの凄まじい攻撃能力。

 しかし、これだけならば予想範囲の中である。 エデン母は薄い笑みを浮かべて立ち上がった。

「驚きましたわ。それでも私は、竜王さんの様には行きませんわよ?」

「......」

「え?」

 ”立ち上がった”つもりだった。

 そのはずの足がまったく動いていないのを認識した途端、 思い出したように腹部の激痛に襲われる。

「う、うげぇ!!」

 まるで、体の中から胃の中の物を押し上げられる様な感覚。 恥も外聞も無く、その場にひれ伏して胃の中の物を吐き出す。

 職業柄痛みには為れているはずであるが、今回の苦しみは、とても我慢できる代物ではなかった。

 両足の自由が効かないのも当然。 内臓にダメージを負って、足に力が入らなくなったボクサーのようなものだ。

「げっ、げっっ!」

 吐き出す汚物に、少量ながら血が混じっていた。

 それを見止めてエデン母の血の気が引く。

 おそらく、この血は内臓のどれかが破れた証拠なのだろうが、エデン母の驚愕の理由は、これが直接的な原因ではない。

 故障していると侮っていた、皆月京次の左手。 それですら、ここまでの破壊力を持っている。

もし、完全無欠の状態である右手の一撃を受けたとしたら。

 その場所が、たとえ急所でなかったとしても、

即死である。


前へ、  次へ、