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「随分前に、女に踵落とした事があってな。 女に暴力というのは、気分の良いモンじゃないんだよ。」
「悪いが、これで勝負ありって事にしてくれ。」
皆月京次が、侵入者二人に挟まれた。 雪之絵 命ですら、見えたのはここまでだ。 その後の京次の動きは、残像すら残らなかった。
「お...終わったの、かな?もしかして。」 半信半疑の命が、隣の高森に問い掛けると、茫然自失だった高森は、一瞬体を震わせた後、命に視線だけ向けて肯いた。
「それはそうでしょう。 文字通り”片手であしらわれた。”のですから。」
もし、皆月京次が戦闘モードで戦ったら、どれほどの強さなのだろう? まったく想像出来ない高森夕矢は、今まで皆月京次のレベルを自分の物差しで図っていた事を、とても恥ずかしく思った。
サラメロウも、尻餅をついたまま理解した。
雪之絵 命を拉致する、今回の任務。
この任務において、雪之絵の血を引く雪之絵 命と、何より、その母の雪之絵真紀が一番の障害になると、鳳仙家と陸刀家、全ての人間が考えている。
先の学校襲撃の時、雪之絵真紀に対して、サラメロウも成る程と納得した。
しかし、それは違った。 この任務において、一番恐ろしいのは雪之絵真紀ではない。
「小判ザメ君も、頭がブレて脳震盪起こしてるだけだから。 直ぐに動けるようになる。」
「小判ザメ君も、頭がブレて脳震盪起こしてるだけだから。 直ぐに動けるようになる。」
京次の言うように、へたり込んでいる小判ザメは、右手以外は大きな怪我はない。 今は意識が朦朧としているものの、そのうち目を覚ますだろう。
だから小判ザメは、このまま放っておいとも問題はないのだが、 サラメロウはそうも行かない。
みすみす処刑されると解っている者を、放ったらかしにも出来ず。かと言って、ワザと負けてやる訳に行かない。 『さて、どうした物かな。』と、京次は戦闘中も、ずっと思案に暮れていたのだ。
「私の恨み!思い知れ!!コンチクショウ!!!」
屋上の端まで、すっ飛んで行ったサラメロウは、背中を鉄柵にぶつけた後、ピクリとも動かなかった。
「あーあ、命さんの蹴りを無防備のまま食らったら、しばらくまともに動けませんよ...京次さん、左手大丈夫ですか?」
高森夕矢が、小走りに京次の元へやって来る。
「ああ、そう問題はない。」
京次の言ったのは本当だ。 小判ザメは手どころか手首まで割られているので、相当な痛みだったろうが、京次は、手の甲の真ん中の骨が、ポッキリ行っただけなので、たいした事はない。
「本当に大丈夫!?本当に大丈夫!!?」
「ああ、全然問題ない。」