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屑男 撲滅委員会!

−ブラック・アイズ−

 震えが止まらず、全力でしがみ付いて放さないカズ子を抱き上げたまま、アケミは鳳仙家の広く長い廊下を歩く。

 後ろには、カズ子のスカートと下着を持った加渓もいるが、こちらはまだ操られているので無表情のままだ。

 アケミは、エデンの住む客間が見えなくなって、やっと安心する。 とりあえず危機は去った。

 途端に、自分の言葉を無視して危ない目にあったカズ子に憤りを感じたが、それを責めるのはあまりに可哀相だ。 股間から流れる血と、脅える今の姿を見れば、そう思わざるおえまい。

「それと、もう一つ解せないのよね...」

 アケミは、チラリと後ろを歩く加渓に視線を向けた。

 カズ子は加渓に『今すぐ助けに来い。』と命じたはずだ。 それなのに、加渓は服なんぞ着替えて現れた。

 今回、デートから帰って来たアケミがカズ子の危機を知ったのは、戦闘服を着て斬馬刀を抱えて走るのを、この屋敷で見かけたからである。

 もし、加渓が戦闘服に着替えず、素手で『エデン』の元へ向かったとしたら、カズ子の処女膜が傷つけられる事はなかっただろう。

 しかし、その代りアケミがあの場を収める事もなく、今頃、加渓とエデンの死闘が行われていた可能性もある。

 結果だけを考えると、カズ子の危険を知りつつ、戦闘態勢を整える加渓の行動の是非は微妙な所だが、術者のカズ子の命令に背いた事実そのものが、アケミには信じられないのであった。

「桐子? あなた加渓に怒られるような事した?」

「?」 

 カズ子は知らないが、タケ子は意識下でムチャクチャ怒っている。 理由は命との秘め事を邪魔されたからなのだが、誰もそんな事は知らない。

「...うっ。」

 カズ子の震えが幾分収まったかと思うと、今度は声を殺して泣きはじめた。

「......」

 エデンへの恐怖が薄れたと同時に、自分の純潔が失われた(と、思っている。)のを思い出したのだろう。

 声を殺しているのは、処女喪失ぐらいで傷ついている自分を、アケミに知られたくないからだ。

 しかしアケミは、処女をかつて好きだった相手に捧げている。

 その好きな相手とは結局別れたが、その時の事は、今でも大切な思い出として残っていた。

 だから、今のカズ子に、そんな気遣いをさせてしまった事自体、申し訳ない。

「桐子。 今日は一緒に寝ようか? 恐い夢を見ないですむように、ね?」

 泣くのがピタリと止まったカズ子は、すっかり勘違いして真っ赤に染まり、コクリと肯いた。

 しかし、アケミにレズっ気は全然無く、本当に一緒に寝るだけでカズ子の期待する様な事は何もなかった。


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