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カチ、カチ、カチ、カチ、カチ、
23:50
俺は学生時分から不良と呼ばれる種族だったが、強くなる事だけは真面目に考えていたため、早寝早起きを心がけ、早朝の鍛練は欠かした事はない。
早起きは三文の得と言うが、俺の得は札束にも匹敵すると思っている。
それは今でも同じ事で、早寝早起きは俺のサイクルなのだ。 と、なれば、日付も変わろうかと言うこの時間、俺はとっくに夢の中、だったのだが。
「寝てる?起きて。 ね、パパ起きて。」
んん?
開いた扉の隙間から差し込む光が、目蓋を通して俺の眼に入る。
「だれだー?」
完全に寝ぼけている俺は、上半身を起こす事すらままならず、顔を光の方へと向けた。
「誰って、私...」
「うーん、藍子、美鈴、アケミちゃん、」
目の前の女の子は、俺の顔を両手でわし掴みにして顔を近づける。 なんだか、とっても睨んでいる。
「誰って...会社の娘...」
「嘘だーーっ!!前の二つはともかく、最後の一つは嘘だぁーーーーっ!!!」
ぼーーーー ?
「それより、どうしたんだ?こんな時間に。」
半ば放心状態のまま、俺が呆れたように言うと、命はハッとして、文字通り思い出した様に答えた。
「ん、一緒に寝てほしいの。」
?
らしくないと言えば全然らしくない。 命は、いつも勝手に俺の布団に潜り込んで来る。わざわざ俺の確認を取って一緒に寝ようなどとは、今までに一度も無かった事だ。
「どうした、恐い夢でも見たか?」
笑顔の俺に対し、命は涙目だった。
「まだ見てない。でも今日は絶対、恐い夢見る。」
弱々しい姿と、確信を持った言葉。
ぼんやりしていた俺は、ここに来てやっと思い出した。 今日が何の日かを。
そうだ、
去年のこの日、命は泣きながら俺の部屋に飛び込んで来た。
その前の年も、その前も、やはり命は泣きながら俺の部屋に飛び込んで来た。
「そうか、じゃ入れ。」
俺は、片手で布団をはぐる。
命は、するすると、小さな体を更にちぢ込ませて、布団の中に潜り込んで来た。
「......」
じっ、と上目使いで俺を見つめる命の頭を、軽く撫でてやる。
俺は、命が寝付くまで起きているつもりだった。
しばらく、そうしていると、命は目蓋を閉じた。
そうだった、
五年前の今日、