の
この前の戦いより、雪之絵の動きは遥かに速い。前の時は、明らかに奢りが見えたが、今回は本気だ。
円を描く事によって、止まる事のない連続攻撃を延々と続けている。
雪之絵は我流である。しかし、その体術は、思い付く限りの格闘技を修行した俺を、間違いなく凌駕していた。
もし俺が女だったら、きっと一生、雪之絵には勝てなかっただろう。
だが、幸いにも俺は男である。それだけで雪之絵を一蹴するには十分だ。
ガチン!!
「くっ!」
いかんともしがたいパワーの差。雪之絵の体は、ほんの少しだけだが宙に浮いた。こうなれば、次の俺の一撃を体術で躱すのは不可能。
俺の攻撃を防ぐ方法は、空いている手でもって受け止めるしかないが、俺は利き腕での攻撃に対し、雪之絵は左腕だ。
そして何より、男と女の力の差。
寸止めするつもりだが、それでも雪之絵が受け止めるのは不可能だ。
の
り
俺は、既に用意していた右拳を、雪之絵の胴体に向けて突き出す。ついでに捻りも加えといてやる。
渾身の一撃。たとえそれが女でなくても、これを食らえば卒倒する、そんな一撃だった。
寸止めする予定だが、そのためのブレーキは、まだ必要ない。
だから、俺の拳を受けようと伸ばした雪之絵の手は、必ず弾き飛ばせる。そう信じて疑わなかった。
しかし、
軋む様な、にぶい音の後、
雪之絵の左手につかまれた俺の右拳は、
まるで岩を殴ったのごとく、
雪之絵に攻撃を止められた。
その事に呆気に取られていた。それは認めるが、この攻撃を食らったのはそのせいではない。
見えなかったのだ。
何がおこったのか分からずに、蹈鞴を踏む俺の耳に、やたらと落ち着いた雪之絵の声が聞こえた。
「ねえ京次、こんな言葉知ってる?」